2023/06/21 15:04


ワイン愛好家の皆さまの中にはご存知の方もいらっしゃると思いますが、ジョージアは世界最古のワイン産地として知られています。「スイスワインについて」の中で、紀元前58年ジュリアス・シーザー侵攻の折、ワイン造りがスイス各地に広められたとご紹介しましたが、ジョージアでは日本がまだ縄文時代だった紀元前6,000年頃にはすでにワインが造られており、実に8,000年以上の歴史を有しています。

1991年ソビエト連邦の崩壊によって独立したことを契機に、徐々にワインの輸出が広がり、日本でも国名がロシア語の「グルジア」から英語読みの「ジョージア」に変更となった2015年頃から輸入量が増え、ジョージア産の「オレンジワイン」がワイン業界でブームになりました。

6月某日、名古屋におけるミニシアターの草分け的存在である「名古屋シネマテーク」で開催された「オタール・イオセリアーニ映画祭~ジョージア、そしてパリ」リバイバル上映の中の一作、「落葉」を鑑賞しました。


オタール・イオセリアーニはジョージア出身の映画監督で、のちにパリに移住しますが、1966年に製作された「落葉」はジョージア時代の作品であり、ワイン醸造工場を舞台に、ソ連の「計画経済」により何としても生産量のノルマを達成しようとする工場側と、良質なワインの生産にこだわる若い醸造技師の対立を描いています。製作当時、本国では当局より公開禁止処分を受けましたが、製作から2年後の1968年カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し、監督の名前が世界に知られるきっかけとなった記念すべき長編第一作です。


映画の冒頭、ジョージアの伝統的な製法でのワイン造りの様子が映し出されます。手編みの籠いっぱいのブドウをSatsnakheli(サツナヘリ)と呼ばれる木製の槽を使って足で踏みつぶし、素焼きの壺Qvevri(クヴェヴリ)に入れて発酵させる一連の動作を目にし、遥か昔から今日まで脈々と受け継がれるワイン造りの歴史に思いを馳せ、また個人的にはかつてソムリエ資格取得の過程で勉強してきた内容を実際に映像で確認できたことが何より新鮮であり、嬉しく思いました。

本編の60年代の醸造工場は冒頭シーンとは異なり近代的になっていますが、ジョージアでは現在でも自宅でワインを造る習慣が残っており、免許がなくても自由に販売できるそうなので、今でもそうした自家製ワインはクヴェヴリを地中に埋めて発酵させるのかも、と想像が膨らみます。いつか現地を視察したいものです。


この映画で最も心を奪われたのはやはり、醸造技師ニコの「職人魂」です。工場側がノルマ達成のためワインを瓶詰めするようニコに命じますが、彼は「49番の樽は熟成していない」と主張し、強く反対します。工場長、上司、同僚、皆がニコの説得にあたり、悩み抜いた結果、それでも彼はふり絞るような声で「49番はサペラヴィではない!」と叫びます。

現代でも会社側と仕事面で対立することはある意味勇気のいる行為だと思いますが、ソ連共産主義政権の支配下にあるこの時代のジョージアにおいて、ニコの行為はどれほどのものだったことか…それでも醸造技師として妥協などできるはずがない、失敗作だとわかっているワインを世の中に送り出すことなどできるわけがない!ニコの魂の叫びを耳にして心が震えました。

ちなみにサペラヴィとはジョージアの黒ブドウ品種で、熟成能力のある高品質ワインを生み出します。赤ワインだけではなく、ロゼワインや甘口ワインも造られます。昨年サクラアワードの審査員をさせていただいた際、サペラヴィばかりを10アイテムほどブラインドテイスティングしましたが、どれもが芳醇で熟成が期待できる赤ワインでした。フルボディ10アイテム…ちょっとキツかったですが()

最終的にニコはある意外な行動にでますが…それはぜひご自身で鑑賞いただければと思います。

いつの時代も生産者は魂を込めて1本1本ワイン造りをされているのだと改めて思いました。昨年の夏、スイス・グラウビュンデン州のワイナリーを訪れた際も、心血を注いで醸造する生産者の姿を目の当たりにしました。そんな大切なワインですから、私も保管状態を万全にして生産者が造りだしたままの味わいをお客様の元へお届けしなければと身の引き締まる思いです。

最後になりましたが、「オレンジワイン」とは簡単にいうと、「白ブドウを使って赤ワインと同じ醸しを行って造ったワイン」です。その色調から「オレンジワイン」と言われることが多いですが、ジョージアでは主に「アンバーワイン」と呼ばれているようです。今や日本も含め、世界中でオレンジワインが生産されています。もちろんスイスでもおいしいオレンジワインが造られていますので、近いうちに当ショップでもご紹介したいと思います。ご期待ください!


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